안녕하세요 -_-;;; 열심히 만화 싸이트 뒤지는 중 어떤 작문(은 아니고 ) 발견 -_-;;;
도저히 해석이 불가한지라 -_-;;;;;
그냥 한번 부탁좀 해보려고 합니다 -_-;; ( 심하게 긴데 -_-;;)
만화에 관련된 내용입니다 .. 만화제목: HUNTER X HUNTER
穩やかに呼吸する深い森の中.重なり合った枝葉の上を,風に乘った小さな羽蟲が行き過ぎようとした時,枝の上で目を回轉させた爬蟲類がそれを捕らえた.そして,その爬蟲類が羽蟲を飮みこんだ瞬間,飛來した鷲が爬蟲類を爪でつかみ取り,大きな羽音と共に飛翔して行く.
海に圍まれた小さな島の中で,森の營みは,高い空の下で變わる事なく繰り返されていた.
その森の,深くに位置する沼の水面は穩やかで,波打つこともなく廣がっている.小鳥の羽ばたきとさえずりが,澄んだ空氣に響いていた.
その沼を,臨むように立っている樹の上からは1本の釣り絲がたれている.釣り絲の先には,1本のドラム罐が半分浮いた狀態で水面に波紋を作っていた.樹の上に座りこむ少年は,木の葉を被り,ただじっと釣り竿を手にしていた.特徵的な逆立った黑髮に,深いブラウンの瞳は水面だけを見つめている.森の空氣や自然と同化しているかのように,少年の肩や頭の上では,小鳥達が何の警戒心もなしにつつき合っていた.
「…!」
水面に,ゆらりとした影が現れる.少年がその氣配に目を見開いた瞬間,ドラム罐が水中に引きこまれ,釣り絲が突然の力に强く張りつめた.
「きたぁ!」
少年が叫んで立ち上がると,小鳥達は驚いたように飛び去っていく.
「きたきたきた,きた!」
引きこまれそうになりつつも,少年は嬉しげに叫びながら竿を持ち直す.巨大な影が上昇し始め,タイミングを計るように一度息をつくと,少年は叫びながら思いっきり竿を振り上げた.
「きた────っ!」
少年の高らかな聲と共に,空を飛ぶように巨大な魚が釣り上げられ,水しぶきがきらめいて散った.
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島の中の街にはレンガ造りの家が竝び,入り口の手前では,一面の麥畑の收穫が行われている.
「…おい?なんだありゃぁ?」
作業をしていた人人が顔を上げ,麥畑を橫切るエビのような甲殼を持った魚を見送った.釣り上げた少年が頭の上で持ち上げているのだが,少年の背の高さほどまで育っている麥に隱れて,巨大な魚が麥畑の上を飛び跳ねているように見える.
「ミトさ──ん!」
石疊の階段を驅け上がり,少年は叫びながら一つの家を目指して走った.
その聲に,中庭で洗濯物を干していた女性が顔を上げた.落ち着いたサ-モンピンクの衣服に,薄い色のロングスカ-トを身に着けている.マスタ-ドブラウンの髮は前髮を數本殘して後ろに流してあり,肩にかかるほどの,邪魔にならない長さだった.
「ゴンの聲だね」
「…ええ」
傍らに座っていた老婆が少年の名を口にすると,名を呼ばれている女性は不思議そうに手にしていた衣類を置き,家の外へと出た.
「ほい!」
ミトと呼ばれる女性が外へ出ると同時に,ゴンは街の人人が幾人か集まりつつある中で,持ち上げていた巨大な魚を地上へと降ろした.周りからは感嘆の聲が上がり,人人が近付いてくる.
「おやまぁ…」
人人のざわめきの中で老婆が聲を漏らすと,ゴンは驚いているミトに向かって笑顔を作って見せた.
「大の大人が,5人がかりでも上げられなかった沼の主を…」
「この島じゃ,釣り上げる者など現れんと思っとったが…」
街の人人が口口に驚き,大した子供だと語る中で,ゴンは1枚のカ-ドをミトの前に持ち上げた.
「さぁ,約束通り主を釣り上げたよ!今度は,ミトさんが約束を守る番だ!」
差し出されたカ-ドには『ハンタ-試驗應募カ-ド』と書かれている.笑顔でいるゴンとは對稱に,險しい表情をしたミトが言葉を出せずにいると,周りの人人から聲が上がった.
「いいじゃないか,許してやんなよ試驗を受けるくらい」
「そうそう,ゴンならきっと立派なハンタ-になれるさ」
その聲に,ミトがきつい口調で言葉を返す.
「簡單に無責任なことを言わないで!」
慌てて目線を反らす街人から,ミトは再びカ-ドを示して話し出すゴンに向き直った.
「そうだよね!言葉には責任を持てって,約束を破るような人間にはなるなって敎えてくれたのはミトさんだよ!」
差し出された應募カ-ドに,暫く視線を向けて黙っていたミトは,諦めたように溜め息をついてそれを受け取った.指定された箇所に人差し指をあてると,ピ,と確認音がして承諾を示す.
「好きにしなさい」
そう言い殘して家の中へ戾るミトに,ゴンは呼び掛けるように言葉を掛けた.
「ありがとうミトさん!」
微笑んでゴンを見ている街人の中で,ゴンは近くのポストへと應募カ-ドを投函し,森へと走り出した.
「…何でなの!?ゴンには親がハンタ-だった事なんて敎えてなかったのに…!」
家に入り,嘆くように叫んだミトの言葉に,老婆が落ち着いた聲を返した.
「誰かに聞いたのかもしれんし,何も知らずに決めたのかもしれん.…いずれにせよ,いつかはこうなる氣がしとったよ」
棚の上に飾られたゴンの父親の寫眞を見やって,老婆は微笑みを作って言葉を續けた.
「何,心配することはないさ.あの子の目は父親にそっくりだ.…あの子はハンタ-の器量だよ」
バイクを背にした寫眞の中の男は,意志の强ぺを深く被った帽子からのぞかせていた.
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森にたどり着き,魚の跳ねる小さな湖を望む場所に立って,ゴンは指を2本口にあてた.馴れた動作で發せられた口笛が森に響き,動物の走る氣配が葉擦れの音と共に近付いてくる.そして,森の木木の中から飛び出してきた大きなキツネグマを,ゴンは抱き付くようにして受け止めた.
ゴンが釣り上げた魚を滿足そうに口に運ぶキツネグマの橫で,ゴンはこのキツネグマが,小さく幼かった頃のことを思い出していた.
三年前,1人でヘビブナの群生地に入ったゴンは,子連れのキツネグマに遭遇して怪我を負ったことがあった.キツネグマが子連れで步く時期に,そのナワバリに入ったものは,遭遇すれば殺される.それを知らずに立ち入ったゴンはキツネグマの攻擊を受けたが,その時,肩に掛けた長身の刀を使う1人のハンタ-に助けられた.
ハンタ-の名はカイトと言い,森の秩序を意識しなかったゴンを毆ったカイトは,同じようにハンタ-であるゴンの父親,ジンの弟子であり,そのジンを搜していた.父親が生きていることも,その父親がハンタ-であることも,ゴンはその時に全て知ったのだ.
カイトが親のキツネグマを處分し,その後同じように子供の方も處分しようとしたが,しかしそれをゴンが庇って育てることに決めた.そのキツネグマが,今こうして隣にいる.
「さて…と」
ゴンは友達のキツネグマに向き直り,その瞳を見て聲を掛けた.
「コン…これからはもう會えない」
じっとこちらを見る,自分が名付けたキツネグマに,ゴンは一度呼吸を置いてから再び口を開く.
「オレはハンタ-になるから!」
三年前から決めていたことを實現する.その爲には,もうコンに會ってはいけなかった.
「ハンタ-は,森の動物に怖がられ嫌われるような仕事もしなくちゃいけない.だから,ハンタ-と仲の良ぱ物は,決して森を治めることはできない.コンはもう,この森の長だから….わかるだろ?」
コンと共に,自分にも言い聞かせるようにゴンが話すと,コンはしばらくして,ゆっくりと森へ入っていった.ゴンがそれを見送ると,ややあって再びコンが現れる.
「…あ!」
その隣には,一回り小さなキツネグマと,足元には數匹の子供のキツネグマがじゃれ合っている.じっとこちらを見つめるコンに,ゴンは笑顔で立ち上がると,大きく手を振ってその場から走り出した.
「バイバイ!元氣でな!!」
そう叫んで走り出した後,ゴンは一度も後ろを振り向きはしなかった.俯いたまま全力で走り續け,ふと,わずかに口を開いた.
「…さよなら」
小さなつぶやきは,走り續ける風の中に搔き消された.
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家に戾った頃には外はもう暗く,靜かな明かりの中にミトが無言で座っていた.テ-ブルの上には,いつもは棚の中のウィスキ-のビンがある.
「いつ出發するの?」
ゴンを振り返らずにミトが言葉を掛け,ゴンはそのミトの背に答えを返した.
「…明日にでも」
「そう」
手にしたグラスを見つめて,ミトが再びゴンに問い掛けた.
「知ってたのね…ジンの仕事」
言われて,ゴンは少し置いてから肯定の返事を返す.ミトは,視線をテ-ブルに落としたまま俯いて話した.
「あいつ…まだ赤ん坊だったあんたを捨てたのよ?」
しばらくの沈黙が訪れ,それからゴンは,視線を變わらずにミトに向けて口を開いた.
「子供を捨ててでも,續けたいと思う仕事なんだね」
その言葉に,俯いていたミトが驚いたように振り返る.
「ハンタ-って,それだけすごい仕事なんだね」
意志の變わらなぺのゴンを見て,ミトは勢いよく椅子から立ち上がった.
「あんた,やっぱりアイツの息子だわ!」
グラスを倒して言い殘すと,ミトは奧の部屋へ入っていった.ミトを見送ってグラスの倒れたテ-ブルを片付けると,ゴンは棚の上から父親の寫眞を手に取った.
「ごめんなさい,ミトさん.…オレは,親父に會いに行くよ」
寫眞の中の父親の瞳には,目指すべき意志の强さがあった
天氣の良い空には雲が緩やかに流れ,港には威勢のいいクル-達の聲が響きわたっていた.ハンタ-試驗を受けるためには,この港を出港する船で島を離れ會場へ向かうことになる.荷物が積みこまれていく船を見上げていたゴンは,少し離れた位置に立つ女性の氣配に氣づいてその視線を向けた.
落ち着いた若さを感じさせている女性の,靜かなタ-コイスの瞳は心配げにゴンを見つめている.
「ミトさん!」
養育者である叔母を確認すると,ゴンは笑顔で驅け出してミトの元へ向かった.
「來てくれたんだ」
「ゴン…」
驅け寄ってきたゴンと視線を合わせると,ミトは淚をこらえるように一度息を飮み,ゴンの名を呼んで抱き締める.
「氣を付けてね」
「うん.ミトさんも元氣でね」
言葉を交わして再び視線を合わせると,港に出航の汽笛が鳴り響いた.
「行かなきゃ」
ミトに向かって笑顔で言葉を殘すと,ゴンは乘船口へと走って,船上へと驅け上がった.船への橋渡しの板が外され,ガラガラと音を立てて錨が引き上げられる.もう1度,耳に響く汽笛が鳴らされると共に船は動き出し,ゆっくりと,次第に速度を上げて陸を離れていく.
「ゴン!」
甲板の先から港を見下ろすと,名前を叫ぶミトが泣いているのが分かった.
「元氣でね-!絶對,立派なハンタ-になって戾ってくるよ!!」
思い切り手を振ってミトに言葉を叫んだゴンは,手を振り返すミトから完全に船が離れるまで,大きく手を振り續けた.
視界に離れていく島の影を見送ると,ゴンの後ろから低い笑い聲が漏れた.振り返ると,數人の乘員がナイフや武器をちらつかせてこちらを笑っている.
「立派なハンタ-なんて,滅多なこと口にするもんじゃねえぜボウズ」
「この船だけでも數十人のハンタ-志望者がいる.殺し合いだって珍しくない事だ」
ゴンはしかし,彼らに言葉を返さずに,ただ黙って再び海の向こうへと視線を移した.目的は,父親であるジンと同じハンタ-になり,そして父親に會うため.それは,この航海よりも果てしなく遠い先にあった.
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海上は夜を迎え,船は不安定な濃紺の波に搖られている.ランプの燈りが賴りなげに搖れる船室に,船長からの船內放送が響いた.
「これから魔物の現れる海域を航行する,十分氣を付けておけ.魔物に勝てた奴らは,船の甲板に上がってこい!」
その言葉をバカにするように,餘裕げな聲が船室で交わされるが,しかしその放送が終わらぬうちに,船上からは蒼白いクラゲのような物體が次次と船內に侵入を始めている.船長は話し終えると,パイプスピ-カ-の蓋を閉じた.
「今年もゼロですかね?」
船員室で食事をとるクル-の1人が,テ-ブルに戾ってくる船長に聲を掛けた.
「どうだかな」
言葉では曖昧に返しても,投げやりともとれる聲はクル-の言葉を肯定している.ここ數年,會場にたどり着けるような者は1人も出ていない.
「まあいい,お前ら氣ィ張っていけよ!」
クル-達が掛け聲で返した後に,船長はキャプテンハットに手をあてて遠くを思い出すように溜め息を吐いた.航海路や海圖,メモなどが亂雜に張りつけられた背後の壁には,バイクを背に,帽子の上にタ-バンを緩く卷いた,1人のハンタ-の寫眞があった.
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海は漆黑の闇夜よりも更に混濁した色を見せ,波はうねるように氣味惡く船を取り卷いている.船長は,甲板に一列に整列したクル-の前に現れると,視線を巡らす程度にあたりを見回して,確認するまでもなく口を開いた.
「やはり今年も,1人もいなかったようだな」
そして言葉を續けようとした時,甲板に足音が響いて聲が掛けられた.
「待ちくたびれたぜ,やっとか」
「何!?」
船長が振り返った先からは,長身の1人の男が步いてくる.暗闇に同化していたかのように,黑いス-ツ姿は足音と共に氣配を現した.深い紫のシャツに,ス-ツと同じ黑いネクタイを締めてはいるものの堅苦しさは全く無く,丸眼鏡のサングラスの奧には,餘裕げな目線がある.
「…時間ですか」
ス-ツ姿の男が船長の前に姿を見せると同時に,もう一つの人影が靜かなつぶやきを零した.船室の外壁にもたれ,ランプの明かりで讀んでいた本を閉じた音が,重い波音に飮みこまれる.
本を仕舞い,緩やかな動きで立ち上がったその少年の,琥珀色の髮が柔らかく搖れた.深いシアンの石と銀を加工したピアスが,サイドの長い髮の間からのぞく.整った面持ちは中性的で,瞳は深く靜かな赤色をたたえていた.
「ほぅ,二人もいたか」
船長が,現れた二人を交互に見て聲を掛けた.
「お前らは,魔物に取り憑かれなかったのか」
この海域に生息する魔物は,人間にはりついた後,その自我や意識を取りこんで混亂させる.意識を飮まれた者は奇怪な行動をとり,正常ではない狀態に陷っていた.
「あぁ,まあな.全く,男に抱きつかれるところだったぜ」
ス-ツ姿の男が溜息混じりに答え,少年は無言で肯定を示す.船長が感心したように息をつくと,ス-ツ姿の男の肩に,ぺとりとした感觸があった.
「ん?…うわ!何だこの,離れろ!!」
船上に殘っていたのか,クラゲのような感觸を持つ魔物が,男の肩に張り付いていた.驚いて聲を上げるその肩に,細い音と共に1本の釣り針が魔物をかすめる.
「!?」
捕らえられた魔物をその場の三人が視線で追うと,1人の少年が,馴れた手つきで手に持った網の中へと魔物を收めた.
「これで全部だね!」
笑顔で持ち上げた網の中には,數十匹という數の魔物が捕獲されている.
「小僧,それをお前が全部捕まえたのか!?」
「うん!」
驚きの聲を上げる船長に,網を持ったゴンはそれを差し出すようにして答えた.
「大したもんだ…よし,お前もこっちへこい!」
口元に笑みを浮かべた船長の聲に,最後に姿を現したゴンはもう一度返事をして走り出した.
「さて,じゃあまずお前らの名前を聞こうか」
竝んだ三人に船長が質問を切り出し,一番右にいたス-ツ姿の男を見た.
「俺はレオリオという者だ」
「オレはゴン!」
船長の視線が移るより先にゴンが答え,最後に少年が靜かに口を開く.
「私の名はクラピカ」
船長は確認するようにうなずいて,三人に次の質問を出す.
「なら,お前らは何でハンタ-になりたいんだ?」
その質問に,レオリオが納得がいかない,と言う表情で反論した.
「おい,えらそ-に聞くもんじゃないぜ.何であんたに言わなきゃならね-んだ」
「いいから答えろ」
「なんだと?」
二人が言い合うのを遮り,ゴンが勢いよく右手を擧げる.
「オレは親父が魅せられた仕事がどんなものか,やってみたいと思ったから!」
そのゴンに向き直ったレオリオが,今度はゴンに言葉を向けた.
「おいこら,勝手に答えるんじゃね-ぞガキ」
「何で?いいじゃん理由を話すくらい」
「い-やダメだね」
右手を高く擧げたまま,レオリオに言い返すゴンに再びレオリオが返すと,無言で見ていたクラピカが口を開いた.
「私もレオリオに同感だ」
その發言が氣に障ったのか,レオリオは今度はクラピカの前に出る.
「おい,お前いくつだ?俺より年下だろうが,人を呼び捨てにしてんじゃね-ぞ」
しかし,クラピカはそのレオリオを無視して前に出た.後ろからレオリオが更に言い募ってきたが,クラピカは氣に掛けることなく船長に向かって言葉を續ける.
「もっともらしいウソをついて,いやな質問を回避するのはたやすい.…しかし,僞證は强欲と等しく最も恥ずべき行爲だと私は考える」
ここまで言うと,クラピカは一度呼吸を置いて聲を落とし,自分を示すように右手を胸へとあてた.
「…かといって,初對面の人間の前で正直に告白するには,私の志望理由は私の內面に深く關わりすぎている.…したがって,この場で質問に答えることはできない」
謝意を表すような聲に,しかし船長はレオリオとクラピカを見て口を開いた.
「そうか,ならお前らは今すぐこの船から下りな」
「何?」
聲を返す二人に,船長は流れの速い雲を見送って言葉を續ける.
「まだわからね-のか?ハンタ-試驗はもう始まってるんだよ.お前ら以外はすでに失格になっている.さあ,答えるのか答えないのか?」
その言葉にしばらくの沈黙が訪れ,やがてクラピカが,一度目を伏せてその顔を上げた.
「…私はクルタ族の生き殘りだ.4年前,私の同胞を皆殺しにした盜賊グル-プを捕まえるために,ハンタ-を志望している」
言い終えたクラピカに,レオリオが疑問を掛ける.
「要は敵討ちか?わざわざハンタ-にならなくたってできるじゃね-か」
「お前に答える理由はないよレオリオ」
レオリオが言い終わらないうちに言葉を返したクラピカに,氣分を害したレオリオが再び詰め寄ろうとする.
「てめぇまた…!」
「おい!お前はレオリオ?」
しかし,それを遮って船長がレオリオに問い掛けた.
「あ?俺か?」
振り返ったレオリオは,笑って兩手を廣げると前へ出た.
「俺の目的は金,金,金さ!金さえありゃあ,何だって手に入るからな!でかい家!!いい車!!うまい酒!!」
そこまで言ったレオリオの後ろから,咎めるようにクラピカが言葉を投げる.
「品性は金で買えないよ,レオリオ」
途端に話をやめたレオリオが,振り返ってクラピカを見た.
「3度目だぜ」
そして,クラピカの脇を行き過ぎながら,見下ろすように言葉をつなげる.
「顔を貸しな.そのうす汚ねぇクルタ族とやらの血を絶やしてやるぜ」
「っ…取り消せレオリオ!!」
ざわりとした怒りと共に,クラピカが後ろのレオリオに振り返って叫んだ.首の高い,ラインの入った靑いマントが,その動きの勢いにひるがってダ-クレッドの裏地をはためかせる.
「…レオリオさん,だ!!」
怒鳴り返したレオリオを,追うようにクラピカもその場を離れた.
「おい,お前ら!」
呼び戾そうとする船長の聲に心配げに視線を送ったゴンは,しかし何か妙な氣配に空を見上げた.
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「…おい」
舵を取っていたクル-が,隣でロ-プをまとめていたクル-に聲を掛けた.
「何だ,どうした?」
驚いているような,不可思議な表情をした仲間に,クル-はロ-プを置いて聲を返す.
「あれ…あそこに」
仲間は前方を示して目を見開いており,振り返ったクル-は,そこに船の外側から,へりに身を乘り出す女性を見付けた.薄い布をまとった女性は,靑い髮を中空に搖らしてこちらを微笑んでいる.人ではないような美しさを湛え,女性は靜かに美しい歌聲を奏でた.
途端に,クル-の1人がフラフラと歌聲に惹かれて步き出す.
「お,おい…!」
それを止めようと聲を上げたもう1人も,次第に朦朧とする意識に,操られるように足を進めた.
船上の,元いた場所の反對に位置する方向に步いたレオリオとクラピカは,互いに張りつめた空氣に苛立ちながら向かい合った.
「來な」
「望むところだ」
クラピカに向かって,身體を斜めに構えたレオリオが言葉を掛けると,クラピカは一度瞳を伏せてから息を吐き,目を開いた.
「おい,こらお前ら…!」
再び二人を呼び戾そうとした船長の聲を,切迫したクル-の聲が遮った.
「船長!!」
その聲と同時に,船長とゴンもまた,海上の異變に氣付いた.海は波が完全に靜まり,低くうなるような風も,全く無くなっている.雲の流れは止まり,靜かな月明かりさえ射し始めていた.
船の頭上を,飛び交うウミヅルが慌ただしく騷ぎ立てる.その不安げな鳴き聲を聞き取り,ゴンは勢いよく船長を振り返った.
「魔物が來るって言ってる!」
「!小僧,鳥言語が分かるのか!?」
聞き取った意味を傳えると,船長は驚いてゴンに言葉を返した.
「全部じゃないけど…」
船長に答えを返し,心配そうにあたりを見回すと,ウミヅルはすでにその姿を消している.
「海域を離れるぞ!」
クル-に指示を出す船長の聲に,船內に入った數人のクル-が叫んだ.
「見張りがいません!!」
「何!?」
途端に混亂し始めた船上に,いくつもの聲が飛び交っている.
「舵取りもいないだと!?」■■■■■■■
その瞬間,船の下にゆらりとした巨大な影が現れ,船が持ち上げられるように大きく搖れた.
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それを合圖とするように,制止していたレオリオとクラピカが足を踏み出し,クラピカが姿勢を低くして床を蹴った.全く無馱な動きのない流れは,瞬時に位置を移動してレオリオにびじを振り上げる.レオリオはそれを大きくかわすと,足場を取り直すクラピカに眞橫から腕を振るった.
「くっ!」
左腕を立てて顔面の左脇でガ-ドし,クラピカは繰り出された拳の重さを身體全體で緩和する.腕を拂うと同時に姿勢を落とし,レオリオの足元を右足で拂った.豫想通りにそれをよけたレオリオが,體勢を整えるより速く垂直に跳び,クラピカは勢いよく右足でレオリオを蹴りつけた.
ギリギリで蹴りをかわしたレオリオに,クラピカは空振った勢いで身體をひるがえし,滯空したまま左足で回し蹴りの體勢を取る.
「ちっ!」
よけきれない蹴りを兩腕を交差させて受け止めると,レオリオはクラピカを押し返して後ろに下がった.大きく搖れる船上で,難なく體勢を立て直し,クラピカが着地と同時に再び床を蹴ってくる.その蹴りを,レオリオは大きくバック宙でかわして,そのまま船上の高い位置へと着地した.
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「おい!何か來たぞ!?」
船が再び大きく搖れ,クル-達が船のへさきを指差して叫んだ.その對極にいたレオリオとクラピカも,船を取りこむように絡みつき,登ってくる巨大な魔物に視線を移した.
クラ-ケンらしく,巨大な軟體生物であることは確かだが,深く靑い體が船をのみこむように這い上がってくる.何本あるのか分からない手觸のような足は,甲板のクル-を狙うように蠢いていた.その巨大な頭部には,鈍い黃金色の目が無數に浮き上がり,ギョロギョロと不規則に月光を亂反射させていた.
「何だありゃぁ?」
レオリオがそれを見てつぶやきを漏らしたが,言葉ほど魔物に興味を向けてはいない.向き直ると,カラリという硬い音と共に,クラピカは對になった木刀を手にしていた.
「今すぐ訂正すれば許してやるぞ,レオリオ」
あまり長さのない二本の木刀は,柄になる位置に布が卷き付けてあり,朱の紐でつながれている.クラピカがそれを構えた時,レオリオもまた,懷中から1本のメスを取り出した.
「てめぇの方が先だクラピカ.俺から讓る氣は全くねぇ」
その言葉を合圖に,二人は再び甲板を蹴った.
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皓皓と白い月明かりが射す海上に,波は闇を包括しつつうねり續ける.魔物の出現に後退るクル-達に,後ろから魔物の觸手が絡みついた.
「う,うわあぁ!?」
捕らえられたクル-が魔物の中に取りこまれると,その悲鳴が消えないうちに,すでに數人が魔物に飮みこまれている.手觸の先は突然にその形を變えると,そこに出現させた巨大な口の中に次次とクル-達を飮みこんでいった.
「厄介なもんにあたっちまったな!」
船長が毒突いて舌打ちをする間にも,魔物は船上に足を乘り上げて,クル-達を體內に取りこんでいった.船上には再び靑い髮の女性が現れ,クル-に向かって,靜かな凍りついた微笑みをかけた.緩やかにその細い腕を伸ばすと,後退るクル-に觸れた途端,女性は甲高い笑い聲と共に靑い煙と化して彼を取りこみ,魔物が素早くそれを飮みこんでいく.
「…!」
ゴンはあたりを見回して付近を確認すると,マストの方向に全力で走り出した.
「お,おい!ボウズ!?」
クル-の聲を聞かず,ゴンはマストの下まで走りこむと,その頂上に向かって張られたラットラインに足を掛け,その網狀に張り巡らされた繩に登り付いた.そして船の搖れには全く構わずに,登る,と言うよりも足場を掛けるだけで,飛び移るようにラットラインを傳ってマストの上へ飛び乘った.
「飮みこんだ人達を返せ!!」
そこからマスト傳いに走りこみ,ゴンは魔物の上へと竿を兩腕で振り上げて飛び降りた.
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振り上げられた木刀を,レオリオが手首の上で受け止めた音が鈍く響いた.クラピカが,彈かれた片方の木刀をそのまま後ろに流し,それと共に一度身體を後ろへと下げる.そして流れるように身體を反轉すると,木刀を片手に持ち替えて高い位置へと回し蹴りを振るった.
攻擊から次の攻擊まで,流れるような全く無馱のないクラピカの動きに,しかしレオリオはその全てをかわしてメスを握り直した.攻擊が途絶える一瞬の間隔に,空氣を切る細い音と共にクラピカにメスを振りかざす.
「くっ!」
クラピカが,床を後ろへ蹴って,月光を銀色に反射する銳利な刃先をかわす.互いが一度離れて距離を取った時,その間を,魔物に彈き飛ばされたゴンが船室の外壁に叩き付けられた.
「!?」
受け身の姿勢から立ち上がるゴンに,二人の注意が決鬪から逸れる.ゴンが完全に立ち上がった時,船長の叫ぶ聲が聞こえた.
「まかせとけ,こいつの弱點は知ってるんだ!」
殘ったクル-達が船長の指示でマストを張り,白い布が頂上まで登っていく.
「今だ!!」
風を見ていた船長が聲を上げると同時に,クル-達は固定すべきマストのロ-プから,一齊に手を離した.途端にマストの帆は風にひるがえり,月明かりを遮斷するように魔物の頭上へと廣がっていく.はためいた白い布は,魔物を包むように,その全體へと覆い被さった.
「やった!」
數人のクル-が聲を上げ,船長が口元に笑みを漏らす.
しかしその刹那,魔物の觸手がマストの帆を突き破って船上を叩き付けた.被せられた布を破り捨てると共に,攻擊性を增した觸手が船長を彈き飛ばす.
「危ない!」
「お,おい!?」
ゴンはレオリオの聲を聞かずにとっさに走り出すと,頭を抱えて起き上がる船長の前へと走りこんだ.毆り掛かる觸手を彈いて船長の無事を確認し,向き直ったが旣に左右兩方からゴンを攻擊するために觸手が振り上げられている.
「っ!」
しかし直後,それは走りこんでいたレオリオとクラピカによって防がれた.一度觸手が後退し,ゴンがそれを見送ったと同時に二人が勢いよく振り返る.
「何という無謀な!!」
「1人で突っこんでいく奴があるかボケ!!」
互いに武器を構えたまま,怒鳴り掛かる二人にゴンは笑顔で返事を返した.
「うん,二人のおかげだよありがとう!」
その言葉に,思わず二人が調子拔けしたような表情を見せる.
「あの魔物は,目を塞いでしまえばいいと聞いていたんだが,ダメだったが…」
帆を突き破り,無數の目を動かす魔物に船長が忌忌しげに言葉を零すと,ゴンがようやく納得したように笑顔で話し掛けた.
「なんだ!それならあれじゃあダメだよ!」■■
「何?」■■■
意味をつかめずに船長が返すと,ゴンはレオリオとクラピカに向き直って口を開いた.
「二人とも!俺が何とかするから,二人はあの魔物の注意を引きつけて!」
「二人で!?」■■■
心底嫌そうに同時に叫んだ二人に,ゴンは詰め寄るように前へ出た.■■
「お願いだよ!後は俺に任せて!」
互いに不滿そうに顔を見合わせ,しかし二人はゴンの視線に納得して構え直した.■■
「しょうがねぇな」
溜め息を付くレオリオの後に,クラピカもまたゴンの言葉を承諾する.■■
「了解した」■■■
ゴンが滿足したように武器を持ち直し,正面の魔物に向き直る.
「オラ,こっちだ!」
互いに背中合わせになったレオリオとクラピカが,レオリオの聲と同時に左右へと分かれた
左右から回りこんでくる觸手に向き直り,レオリオはその片方をメスで切り付けると,もう一方をかわして逃げまどうクル-を避けながら高く跳んだ.中空で魔物の動きを確認しつつ,船のヘリへと着地する.バランスを崩せば海流にのみこまれるその場所で,しかしレオリオはそのまま船のヘリを走って,クラピカ,ゴンの位置との距離を離した.
レオリオと逆に船上の左へと走りこんだクラピカは,動きを亂すこともなく視線だけで後方を見る.距離を確認すると同時に,前方にいた1人のクル-が,慌てながらランプを捨ててその場所を離れた.その殘されたランプを視界にかすめ,クラピカは踏みこんだ片足を軸に身體を反轉させて振り返る.■
「はっ!!」
構えた木刀で觸手の攻擊を毆り拂い,流れを止めずに片手で木刀をそろえて右脇へと抱える.觸手が再び攻擊を仕掛けるより速く,クラピカは着用していたマントを取り去って前方へと走りこんだ.そして,危險から逃げたクル-が投げ捨てていったランプを手に取り,手にしていたマントに包むと今度は魔物に向かって姿勢を低くして走り出す.■■
「くらえ!!」
叫ぶと同時に甲板を蹴ると,クラピカは抱えていたランプを魔物へと投げ付ける.ランプは船に取り付いていた魔物の身體にぶつかると,それを包んでいたマントに引火して燃え上がり,魔物は奇聲を上げて觸手で海水を吸い上げて火を消そうとした.
魔物の混亂を見て,ゴンが武器とする釣り竿を構え直す.■■
「いくぞ!!」
ゴンが構えた竿を高く上空に向かって振り上げると,勢いをつけた針の錘はマストの高さを更に超えた.細い絲がマストに掛かり,錘は勢いをつけたまま向きを變えて魔物の身體へと針を引っかける.
それに氣付いた魔物が大きく體を振り回すと,針をかけたままの絲は强い勢いで魔物の動きに引っ張られた.ゴンは强く竿を握り直し,甲板を思い切り蹴って跳躍すると,引き上げられる勢いのままにマストを飛び越える.
同時に,魔物の頭上でくるりと回轉して勢いを落とし,ゴンは魔物の上へと飛び乘った.
「よっ!」
着地した場所の,足元にある小さな黑い点を確認し,ゴンはその二つの点をじっと見つめた.途端,小さな二つの点は小さく見開かれ,パチパチと瞬きをする.それを確認したゴンは,笑顔で魔物の上へとしゃがみこむと,兩手でその二つの点を覆った.
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その途端,魔物の身體は空氣が拔けるように縮み出し,飮みこまれたクル-達が次次に甲板へと吐き出された.■■
「やった ──!!」
歡喜の聲を上げるクル-達の中で,船長がそれを滿足げに見上げて笑った.次次とクル-達が集まり,感嘆と歡喜の叫びを上げる.■■
「おい!大丈夫か?」
最後に甲板へと投げ出されたゴンに,レオリオとクラピカが驅け寄って聲を掛ける.ゴンは返事を返して起き上がると,手にした小さな生き物を二人の前へ差し出した.
「はいっ!これが魔物の正體だよ」■■
「は?…これが?」
ゴンに持ち上げられた,片手で持てる程度の大きさしかない軟體生物に,レオリオはサングラスを視線からずらして凝視した.クラピカもまた,きょとんとした表情でイカとタコとの融合體のような小さな生き物を見やる.
差し出された生き物は,上部にあるごく小さな黑い点をパチパチとさせた.■■
「…もしかして,これが目か?」
おどおどとしたように,せわしなく瞬きを繰り返す二つの点を指差してレオリオが言うと,ゴンはうなずいて笑顔で返答した.
「うん!だって,最初に現れた時からずっとこっちをにらんでたじゃん!」
當然のように答えるゴンに,レオリオはクラピカとお互いの顔を見合わせる.■■
「…氣付いてたか?」
「いや,全く…」
無數の鈍い金色のものは實際の目ではなく,目としての役割を果たしていたのは,この小さな二つの黑い点だったらしい.小さな魔物を抱え直すゴンに向き直って,レオリオは笑って感嘆の意を示した.■■
「全くたいしたもんだぜ.よく見つけられたな」
「うん,二人が引きつけてくれたおかげだよ,ありがとう!」
レオリオの言葉を受けて,すぐに笑って返したゴンの返答に,レオリオとクラピカは再び顔を見合わせる.
その三人のやりとりを見ていた船長は,嬉しげに笑い出して聲を掛けた.■■
「氣に入ったぜお前ら!安心しな,お前ら三人はこの俺樣が,責任を持って會場まで送り屆けてやるよ!」
すでに夜が明け始め,海上がようやく落ち着いた波を打ち始める.笑いながらクル-に指示を出し始めた船長の言葉に,三人はようやく息をついて笑顔をかわした.
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ウミヅルが,陽が昇った海を安心した樣子で飛び交っていた.いつも通りに鳴き聲をかわしては,時折船上のマストに降り立って戱れている.
お互いの言葉を撤回しクラピカと握手を交わした後,甲板で,レオリオが調理場から持ち出した深い鍋に,水をかけて沸かし始めた.ゴンに抱えられたままの小さな魔物は,それに氣付いたのか,ゴンに持ち上げられると慌てておどおどと動き始める.
ゴンは笑って手に抱えた魔物を見やると,海上に振り返ってその小さな生き物を海へと歸してやった.それを見たレオリオが,聲を上げながら走り寄ってきて船の外へと身體を乘り出した.
勿體ない,というようなことを抗議するレオリオに,かわいそうじゃん,と言い返すゴンの二人を,魔物を見送ったクラピカが船のヘリに寄りかかったまま微笑する.
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空の靑を映す波は穩やかで,風は順調に,三人をこれから始まるハンタ-試驗會場へと運んでいた.
으어어어어어어어 끔찍함 니다아아;;;;;;;
도저히 해석이 불가한지라 -_-;;;;;
그냥 한번 부탁좀 해보려고 합니다 -_-;; ( 심하게 긴데 -_-;;)
만화에 관련된 내용입니다 .. 만화제목: HUNTER X HUNTER
穩やかに呼吸する深い森の中.重なり合った枝葉の上を,風に乘った小さな羽蟲が行き過ぎようとした時,枝の上で目を回轉させた爬蟲類がそれを捕らえた.そして,その爬蟲類が羽蟲を飮みこんだ瞬間,飛來した鷲が爬蟲類を爪でつかみ取り,大きな羽音と共に飛翔して行く.
海に圍まれた小さな島の中で,森の營みは,高い空の下で變わる事なく繰り返されていた.
その森の,深くに位置する沼の水面は穩やかで,波打つこともなく廣がっている.小鳥の羽ばたきとさえずりが,澄んだ空氣に響いていた.
その沼を,臨むように立っている樹の上からは1本の釣り絲がたれている.釣り絲の先には,1本のドラム罐が半分浮いた狀態で水面に波紋を作っていた.樹の上に座りこむ少年は,木の葉を被り,ただじっと釣り竿を手にしていた.特徵的な逆立った黑髮に,深いブラウンの瞳は水面だけを見つめている.森の空氣や自然と同化しているかのように,少年の肩や頭の上では,小鳥達が何の警戒心もなしにつつき合っていた.
「…!」
水面に,ゆらりとした影が現れる.少年がその氣配に目を見開いた瞬間,ドラム罐が水中に引きこまれ,釣り絲が突然の力に强く張りつめた.
「きたぁ!」
少年が叫んで立ち上がると,小鳥達は驚いたように飛び去っていく.
「きたきたきた,きた!」
引きこまれそうになりつつも,少年は嬉しげに叫びながら竿を持ち直す.巨大な影が上昇し始め,タイミングを計るように一度息をつくと,少年は叫びながら思いっきり竿を振り上げた.
「きた────っ!」
少年の高らかな聲と共に,空を飛ぶように巨大な魚が釣り上げられ,水しぶきがきらめいて散った.
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島の中の街にはレンガ造りの家が竝び,入り口の手前では,一面の麥畑の收穫が行われている.
「…おい?なんだありゃぁ?」
作業をしていた人人が顔を上げ,麥畑を橫切るエビのような甲殼を持った魚を見送った.釣り上げた少年が頭の上で持ち上げているのだが,少年の背の高さほどまで育っている麥に隱れて,巨大な魚が麥畑の上を飛び跳ねているように見える.
「ミトさ──ん!」
石疊の階段を驅け上がり,少年は叫びながら一つの家を目指して走った.
その聲に,中庭で洗濯物を干していた女性が顔を上げた.落ち着いたサ-モンピンクの衣服に,薄い色のロングスカ-トを身に着けている.マスタ-ドブラウンの髮は前髮を數本殘して後ろに流してあり,肩にかかるほどの,邪魔にならない長さだった.
「ゴンの聲だね」
「…ええ」
傍らに座っていた老婆が少年の名を口にすると,名を呼ばれている女性は不思議そうに手にしていた衣類を置き,家の外へと出た.
「ほい!」
ミトと呼ばれる女性が外へ出ると同時に,ゴンは街の人人が幾人か集まりつつある中で,持ち上げていた巨大な魚を地上へと降ろした.周りからは感嘆の聲が上がり,人人が近付いてくる.
「おやまぁ…」
人人のざわめきの中で老婆が聲を漏らすと,ゴンは驚いているミトに向かって笑顔を作って見せた.
「大の大人が,5人がかりでも上げられなかった沼の主を…」
「この島じゃ,釣り上げる者など現れんと思っとったが…」
街の人人が口口に驚き,大した子供だと語る中で,ゴンは1枚のカ-ドをミトの前に持ち上げた.
「さぁ,約束通り主を釣り上げたよ!今度は,ミトさんが約束を守る番だ!」
差し出されたカ-ドには『ハンタ-試驗應募カ-ド』と書かれている.笑顔でいるゴンとは對稱に,險しい表情をしたミトが言葉を出せずにいると,周りの人人から聲が上がった.
「いいじゃないか,許してやんなよ試驗を受けるくらい」
「そうそう,ゴンならきっと立派なハンタ-になれるさ」
その聲に,ミトがきつい口調で言葉を返す.
「簡單に無責任なことを言わないで!」
慌てて目線を反らす街人から,ミトは再びカ-ドを示して話し出すゴンに向き直った.
「そうだよね!言葉には責任を持てって,約束を破るような人間にはなるなって敎えてくれたのはミトさんだよ!」
差し出された應募カ-ドに,暫く視線を向けて黙っていたミトは,諦めたように溜め息をついてそれを受け取った.指定された箇所に人差し指をあてると,ピ,と確認音がして承諾を示す.
「好きにしなさい」
そう言い殘して家の中へ戾るミトに,ゴンは呼び掛けるように言葉を掛けた.
「ありがとうミトさん!」
微笑んでゴンを見ている街人の中で,ゴンは近くのポストへと應募カ-ドを投函し,森へと走り出した.
「…何でなの!?ゴンには親がハンタ-だった事なんて敎えてなかったのに…!」
家に入り,嘆くように叫んだミトの言葉に,老婆が落ち着いた聲を返した.
「誰かに聞いたのかもしれんし,何も知らずに決めたのかもしれん.…いずれにせよ,いつかはこうなる氣がしとったよ」
棚の上に飾られたゴンの父親の寫眞を見やって,老婆は微笑みを作って言葉を續けた.
「何,心配することはないさ.あの子の目は父親にそっくりだ.…あの子はハンタ-の器量だよ」
バイクを背にした寫眞の中の男は,意志の强ぺを深く被った帽子からのぞかせていた.
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森にたどり着き,魚の跳ねる小さな湖を望む場所に立って,ゴンは指を2本口にあてた.馴れた動作で發せられた口笛が森に響き,動物の走る氣配が葉擦れの音と共に近付いてくる.そして,森の木木の中から飛び出してきた大きなキツネグマを,ゴンは抱き付くようにして受け止めた.
ゴンが釣り上げた魚を滿足そうに口に運ぶキツネグマの橫で,ゴンはこのキツネグマが,小さく幼かった頃のことを思い出していた.
三年前,1人でヘビブナの群生地に入ったゴンは,子連れのキツネグマに遭遇して怪我を負ったことがあった.キツネグマが子連れで步く時期に,そのナワバリに入ったものは,遭遇すれば殺される.それを知らずに立ち入ったゴンはキツネグマの攻擊を受けたが,その時,肩に掛けた長身の刀を使う1人のハンタ-に助けられた.
ハンタ-の名はカイトと言い,森の秩序を意識しなかったゴンを毆ったカイトは,同じようにハンタ-であるゴンの父親,ジンの弟子であり,そのジンを搜していた.父親が生きていることも,その父親がハンタ-であることも,ゴンはその時に全て知ったのだ.
カイトが親のキツネグマを處分し,その後同じように子供の方も處分しようとしたが,しかしそれをゴンが庇って育てることに決めた.そのキツネグマが,今こうして隣にいる.
「さて…と」
ゴンは友達のキツネグマに向き直り,その瞳を見て聲を掛けた.
「コン…これからはもう會えない」
じっとこちらを見る,自分が名付けたキツネグマに,ゴンは一度呼吸を置いてから再び口を開く.
「オレはハンタ-になるから!」
三年前から決めていたことを實現する.その爲には,もうコンに會ってはいけなかった.
「ハンタ-は,森の動物に怖がられ嫌われるような仕事もしなくちゃいけない.だから,ハンタ-と仲の良ぱ物は,決して森を治めることはできない.コンはもう,この森の長だから….わかるだろ?」
コンと共に,自分にも言い聞かせるようにゴンが話すと,コンはしばらくして,ゆっくりと森へ入っていった.ゴンがそれを見送ると,ややあって再びコンが現れる.
「…あ!」
その隣には,一回り小さなキツネグマと,足元には數匹の子供のキツネグマがじゃれ合っている.じっとこちらを見つめるコンに,ゴンは笑顔で立ち上がると,大きく手を振ってその場から走り出した.
「バイバイ!元氣でな!!」
そう叫んで走り出した後,ゴンは一度も後ろを振り向きはしなかった.俯いたまま全力で走り續け,ふと,わずかに口を開いた.
「…さよなら」
小さなつぶやきは,走り續ける風の中に搔き消された.
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家に戾った頃には外はもう暗く,靜かな明かりの中にミトが無言で座っていた.テ-ブルの上には,いつもは棚の中のウィスキ-のビンがある.
「いつ出發するの?」
ゴンを振り返らずにミトが言葉を掛け,ゴンはそのミトの背に答えを返した.
「…明日にでも」
「そう」
手にしたグラスを見つめて,ミトが再びゴンに問い掛けた.
「知ってたのね…ジンの仕事」
言われて,ゴンは少し置いてから肯定の返事を返す.ミトは,視線をテ-ブルに落としたまま俯いて話した.
「あいつ…まだ赤ん坊だったあんたを捨てたのよ?」
しばらくの沈黙が訪れ,それからゴンは,視線を變わらずにミトに向けて口を開いた.
「子供を捨ててでも,續けたいと思う仕事なんだね」
その言葉に,俯いていたミトが驚いたように振り返る.
「ハンタ-って,それだけすごい仕事なんだね」
意志の變わらなぺのゴンを見て,ミトは勢いよく椅子から立ち上がった.
「あんた,やっぱりアイツの息子だわ!」
グラスを倒して言い殘すと,ミトは奧の部屋へ入っていった.ミトを見送ってグラスの倒れたテ-ブルを片付けると,ゴンは棚の上から父親の寫眞を手に取った.
「ごめんなさい,ミトさん.…オレは,親父に會いに行くよ」
寫眞の中の父親の瞳には,目指すべき意志の强さがあった
天氣の良い空には雲が緩やかに流れ,港には威勢のいいクル-達の聲が響きわたっていた.ハンタ-試驗を受けるためには,この港を出港する船で島を離れ會場へ向かうことになる.荷物が積みこまれていく船を見上げていたゴンは,少し離れた位置に立つ女性の氣配に氣づいてその視線を向けた.
落ち着いた若さを感じさせている女性の,靜かなタ-コイスの瞳は心配げにゴンを見つめている.
「ミトさん!」
養育者である叔母を確認すると,ゴンは笑顔で驅け出してミトの元へ向かった.
「來てくれたんだ」
「ゴン…」
驅け寄ってきたゴンと視線を合わせると,ミトは淚をこらえるように一度息を飮み,ゴンの名を呼んで抱き締める.
「氣を付けてね」
「うん.ミトさんも元氣でね」
言葉を交わして再び視線を合わせると,港に出航の汽笛が鳴り響いた.
「行かなきゃ」
ミトに向かって笑顔で言葉を殘すと,ゴンは乘船口へと走って,船上へと驅け上がった.船への橋渡しの板が外され,ガラガラと音を立てて錨が引き上げられる.もう1度,耳に響く汽笛が鳴らされると共に船は動き出し,ゆっくりと,次第に速度を上げて陸を離れていく.
「ゴン!」
甲板の先から港を見下ろすと,名前を叫ぶミトが泣いているのが分かった.
「元氣でね-!絶對,立派なハンタ-になって戾ってくるよ!!」
思い切り手を振ってミトに言葉を叫んだゴンは,手を振り返すミトから完全に船が離れるまで,大きく手を振り續けた.
視界に離れていく島の影を見送ると,ゴンの後ろから低い笑い聲が漏れた.振り返ると,數人の乘員がナイフや武器をちらつかせてこちらを笑っている.
「立派なハンタ-なんて,滅多なこと口にするもんじゃねえぜボウズ」
「この船だけでも數十人のハンタ-志望者がいる.殺し合いだって珍しくない事だ」
ゴンはしかし,彼らに言葉を返さずに,ただ黙って再び海の向こうへと視線を移した.目的は,父親であるジンと同じハンタ-になり,そして父親に會うため.それは,この航海よりも果てしなく遠い先にあった.
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海上は夜を迎え,船は不安定な濃紺の波に搖られている.ランプの燈りが賴りなげに搖れる船室に,船長からの船內放送が響いた.
「これから魔物の現れる海域を航行する,十分氣を付けておけ.魔物に勝てた奴らは,船の甲板に上がってこい!」
その言葉をバカにするように,餘裕げな聲が船室で交わされるが,しかしその放送が終わらぬうちに,船上からは蒼白いクラゲのような物體が次次と船內に侵入を始めている.船長は話し終えると,パイプスピ-カ-の蓋を閉じた.
「今年もゼロですかね?」
船員室で食事をとるクル-の1人が,テ-ブルに戾ってくる船長に聲を掛けた.
「どうだかな」
言葉では曖昧に返しても,投げやりともとれる聲はクル-の言葉を肯定している.ここ數年,會場にたどり着けるような者は1人も出ていない.
「まあいい,お前ら氣ィ張っていけよ!」
クル-達が掛け聲で返した後に,船長はキャプテンハットに手をあてて遠くを思い出すように溜め息を吐いた.航海路や海圖,メモなどが亂雜に張りつけられた背後の壁には,バイクを背に,帽子の上にタ-バンを緩く卷いた,1人のハンタ-の寫眞があった.
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海は漆黑の闇夜よりも更に混濁した色を見せ,波はうねるように氣味惡く船を取り卷いている.船長は,甲板に一列に整列したクル-の前に現れると,視線を巡らす程度にあたりを見回して,確認するまでもなく口を開いた.
「やはり今年も,1人もいなかったようだな」
そして言葉を續けようとした時,甲板に足音が響いて聲が掛けられた.
「待ちくたびれたぜ,やっとか」
「何!?」
船長が振り返った先からは,長身の1人の男が步いてくる.暗闇に同化していたかのように,黑いス-ツ姿は足音と共に氣配を現した.深い紫のシャツに,ス-ツと同じ黑いネクタイを締めてはいるものの堅苦しさは全く無く,丸眼鏡のサングラスの奧には,餘裕げな目線がある.
「…時間ですか」
ス-ツ姿の男が船長の前に姿を見せると同時に,もう一つの人影が靜かなつぶやきを零した.船室の外壁にもたれ,ランプの明かりで讀んでいた本を閉じた音が,重い波音に飮みこまれる.
本を仕舞い,緩やかな動きで立ち上がったその少年の,琥珀色の髮が柔らかく搖れた.深いシアンの石と銀を加工したピアスが,サイドの長い髮の間からのぞく.整った面持ちは中性的で,瞳は深く靜かな赤色をたたえていた.
「ほぅ,二人もいたか」
船長が,現れた二人を交互に見て聲を掛けた.
「お前らは,魔物に取り憑かれなかったのか」
この海域に生息する魔物は,人間にはりついた後,その自我や意識を取りこんで混亂させる.意識を飮まれた者は奇怪な行動をとり,正常ではない狀態に陷っていた.
「あぁ,まあな.全く,男に抱きつかれるところだったぜ」
ス-ツ姿の男が溜息混じりに答え,少年は無言で肯定を示す.船長が感心したように息をつくと,ス-ツ姿の男の肩に,ぺとりとした感觸があった.
「ん?…うわ!何だこの,離れろ!!」
船上に殘っていたのか,クラゲのような感觸を持つ魔物が,男の肩に張り付いていた.驚いて聲を上げるその肩に,細い音と共に1本の釣り針が魔物をかすめる.
「!?」
捕らえられた魔物をその場の三人が視線で追うと,1人の少年が,馴れた手つきで手に持った網の中へと魔物を收めた.
「これで全部だね!」
笑顔で持ち上げた網の中には,數十匹という數の魔物が捕獲されている.
「小僧,それをお前が全部捕まえたのか!?」
「うん!」
驚きの聲を上げる船長に,網を持ったゴンはそれを差し出すようにして答えた.
「大したもんだ…よし,お前もこっちへこい!」
口元に笑みを浮かべた船長の聲に,最後に姿を現したゴンはもう一度返事をして走り出した.
「さて,じゃあまずお前らの名前を聞こうか」
竝んだ三人に船長が質問を切り出し,一番右にいたス-ツ姿の男を見た.
「俺はレオリオという者だ」
「オレはゴン!」
船長の視線が移るより先にゴンが答え,最後に少年が靜かに口を開く.
「私の名はクラピカ」
船長は確認するようにうなずいて,三人に次の質問を出す.
「なら,お前らは何でハンタ-になりたいんだ?」
その質問に,レオリオが納得がいかない,と言う表情で反論した.
「おい,えらそ-に聞くもんじゃないぜ.何であんたに言わなきゃならね-んだ」
「いいから答えろ」
「なんだと?」
二人が言い合うのを遮り,ゴンが勢いよく右手を擧げる.
「オレは親父が魅せられた仕事がどんなものか,やってみたいと思ったから!」
そのゴンに向き直ったレオリオが,今度はゴンに言葉を向けた.
「おいこら,勝手に答えるんじゃね-ぞガキ」
「何で?いいじゃん理由を話すくらい」
「い-やダメだね」
右手を高く擧げたまま,レオリオに言い返すゴンに再びレオリオが返すと,無言で見ていたクラピカが口を開いた.
「私もレオリオに同感だ」
その發言が氣に障ったのか,レオリオは今度はクラピカの前に出る.
「おい,お前いくつだ?俺より年下だろうが,人を呼び捨てにしてんじゃね-ぞ」
しかし,クラピカはそのレオリオを無視して前に出た.後ろからレオリオが更に言い募ってきたが,クラピカは氣に掛けることなく船長に向かって言葉を續ける.
「もっともらしいウソをついて,いやな質問を回避するのはたやすい.…しかし,僞證は强欲と等しく最も恥ずべき行爲だと私は考える」
ここまで言うと,クラピカは一度呼吸を置いて聲を落とし,自分を示すように右手を胸へとあてた.
「…かといって,初對面の人間の前で正直に告白するには,私の志望理由は私の內面に深く關わりすぎている.…したがって,この場で質問に答えることはできない」
謝意を表すような聲に,しかし船長はレオリオとクラピカを見て口を開いた.
「そうか,ならお前らは今すぐこの船から下りな」
「何?」
聲を返す二人に,船長は流れの速い雲を見送って言葉を續ける.
「まだわからね-のか?ハンタ-試驗はもう始まってるんだよ.お前ら以外はすでに失格になっている.さあ,答えるのか答えないのか?」
その言葉にしばらくの沈黙が訪れ,やがてクラピカが,一度目を伏せてその顔を上げた.
「…私はクルタ族の生き殘りだ.4年前,私の同胞を皆殺しにした盜賊グル-プを捕まえるために,ハンタ-を志望している」
言い終えたクラピカに,レオリオが疑問を掛ける.
「要は敵討ちか?わざわざハンタ-にならなくたってできるじゃね-か」
「お前に答える理由はないよレオリオ」
レオリオが言い終わらないうちに言葉を返したクラピカに,氣分を害したレオリオが再び詰め寄ろうとする.
「てめぇまた…!」
「おい!お前はレオリオ?」
しかし,それを遮って船長がレオリオに問い掛けた.
「あ?俺か?」
振り返ったレオリオは,笑って兩手を廣げると前へ出た.
「俺の目的は金,金,金さ!金さえありゃあ,何だって手に入るからな!でかい家!!いい車!!うまい酒!!」
そこまで言ったレオリオの後ろから,咎めるようにクラピカが言葉を投げる.
「品性は金で買えないよ,レオリオ」
途端に話をやめたレオリオが,振り返ってクラピカを見た.
「3度目だぜ」
そして,クラピカの脇を行き過ぎながら,見下ろすように言葉をつなげる.
「顔を貸しな.そのうす汚ねぇクルタ族とやらの血を絶やしてやるぜ」
「っ…取り消せレオリオ!!」
ざわりとした怒りと共に,クラピカが後ろのレオリオに振り返って叫んだ.首の高い,ラインの入った靑いマントが,その動きの勢いにひるがってダ-クレッドの裏地をはためかせる.
「…レオリオさん,だ!!」
怒鳴り返したレオリオを,追うようにクラピカもその場を離れた.
「おい,お前ら!」
呼び戾そうとする船長の聲に心配げに視線を送ったゴンは,しかし何か妙な氣配に空を見上げた.
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「…おい」
舵を取っていたクル-が,隣でロ-プをまとめていたクル-に聲を掛けた.
「何だ,どうした?」
驚いているような,不可思議な表情をした仲間に,クル-はロ-プを置いて聲を返す.
「あれ…あそこに」
仲間は前方を示して目を見開いており,振り返ったクル-は,そこに船の外側から,へりに身を乘り出す女性を見付けた.薄い布をまとった女性は,靑い髮を中空に搖らしてこちらを微笑んでいる.人ではないような美しさを湛え,女性は靜かに美しい歌聲を奏でた.
途端に,クル-の1人がフラフラと歌聲に惹かれて步き出す.
「お,おい…!」
それを止めようと聲を上げたもう1人も,次第に朦朧とする意識に,操られるように足を進めた.
船上の,元いた場所の反對に位置する方向に步いたレオリオとクラピカは,互いに張りつめた空氣に苛立ちながら向かい合った.
「來な」
「望むところだ」
クラピカに向かって,身體を斜めに構えたレオリオが言葉を掛けると,クラピカは一度瞳を伏せてから息を吐き,目を開いた.
「おい,こらお前ら…!」
再び二人を呼び戾そうとした船長の聲を,切迫したクル-の聲が遮った.
「船長!!」
その聲と同時に,船長とゴンもまた,海上の異變に氣付いた.海は波が完全に靜まり,低くうなるような風も,全く無くなっている.雲の流れは止まり,靜かな月明かりさえ射し始めていた.
船の頭上を,飛び交うウミヅルが慌ただしく騷ぎ立てる.その不安げな鳴き聲を聞き取り,ゴンは勢いよく船長を振り返った.
「魔物が來るって言ってる!」
「!小僧,鳥言語が分かるのか!?」
聞き取った意味を傳えると,船長は驚いてゴンに言葉を返した.
「全部じゃないけど…」
船長に答えを返し,心配そうにあたりを見回すと,ウミヅルはすでにその姿を消している.
「海域を離れるぞ!」
クル-に指示を出す船長の聲に,船內に入った數人のクル-が叫んだ.
「見張りがいません!!」
「何!?」
途端に混亂し始めた船上に,いくつもの聲が飛び交っている.
「舵取りもいないだと!?」■■■■■■■
その瞬間,船の下にゆらりとした巨大な影が現れ,船が持ち上げられるように大きく搖れた.
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それを合圖とするように,制止していたレオリオとクラピカが足を踏み出し,クラピカが姿勢を低くして床を蹴った.全く無馱な動きのない流れは,瞬時に位置を移動してレオリオにびじを振り上げる.レオリオはそれを大きくかわすと,足場を取り直すクラピカに眞橫から腕を振るった.
「くっ!」
左腕を立てて顔面の左脇でガ-ドし,クラピカは繰り出された拳の重さを身體全體で緩和する.腕を拂うと同時に姿勢を落とし,レオリオの足元を右足で拂った.豫想通りにそれをよけたレオリオが,體勢を整えるより速く垂直に跳び,クラピカは勢いよく右足でレオリオを蹴りつけた.
ギリギリで蹴りをかわしたレオリオに,クラピカは空振った勢いで身體をひるがえし,滯空したまま左足で回し蹴りの體勢を取る.
「ちっ!」
よけきれない蹴りを兩腕を交差させて受け止めると,レオリオはクラピカを押し返して後ろに下がった.大きく搖れる船上で,難なく體勢を立て直し,クラピカが着地と同時に再び床を蹴ってくる.その蹴りを,レオリオは大きくバック宙でかわして,そのまま船上の高い位置へと着地した.
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「おい!何か來たぞ!?」
船が再び大きく搖れ,クル-達が船のへさきを指差して叫んだ.その對極にいたレオリオとクラピカも,船を取りこむように絡みつき,登ってくる巨大な魔物に視線を移した.
クラ-ケンらしく,巨大な軟體生物であることは確かだが,深く靑い體が船をのみこむように這い上がってくる.何本あるのか分からない手觸のような足は,甲板のクル-を狙うように蠢いていた.その巨大な頭部には,鈍い黃金色の目が無數に浮き上がり,ギョロギョロと不規則に月光を亂反射させていた.
「何だありゃぁ?」
レオリオがそれを見てつぶやきを漏らしたが,言葉ほど魔物に興味を向けてはいない.向き直ると,カラリという硬い音と共に,クラピカは對になった木刀を手にしていた.
「今すぐ訂正すれば許してやるぞ,レオリオ」
あまり長さのない二本の木刀は,柄になる位置に布が卷き付けてあり,朱の紐でつながれている.クラピカがそれを構えた時,レオリオもまた,懷中から1本のメスを取り出した.
「てめぇの方が先だクラピカ.俺から讓る氣は全くねぇ」
その言葉を合圖に,二人は再び甲板を蹴った.
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皓皓と白い月明かりが射す海上に,波は闇を包括しつつうねり續ける.魔物の出現に後退るクル-達に,後ろから魔物の觸手が絡みついた.
「う,うわあぁ!?」
捕らえられたクル-が魔物の中に取りこまれると,その悲鳴が消えないうちに,すでに數人が魔物に飮みこまれている.手觸の先は突然にその形を變えると,そこに出現させた巨大な口の中に次次とクル-達を飮みこんでいった.
「厄介なもんにあたっちまったな!」
船長が毒突いて舌打ちをする間にも,魔物は船上に足を乘り上げて,クル-達を體內に取りこんでいった.船上には再び靑い髮の女性が現れ,クル-に向かって,靜かな凍りついた微笑みをかけた.緩やかにその細い腕を伸ばすと,後退るクル-に觸れた途端,女性は甲高い笑い聲と共に靑い煙と化して彼を取りこみ,魔物が素早くそれを飮みこんでいく.
「…!」
ゴンはあたりを見回して付近を確認すると,マストの方向に全力で走り出した.
「お,おい!ボウズ!?」
クル-の聲を聞かず,ゴンはマストの下まで走りこむと,その頂上に向かって張られたラットラインに足を掛け,その網狀に張り巡らされた繩に登り付いた.そして船の搖れには全く構わずに,登る,と言うよりも足場を掛けるだけで,飛び移るようにラットラインを傳ってマストの上へ飛び乘った.
「飮みこんだ人達を返せ!!」
そこからマスト傳いに走りこみ,ゴンは魔物の上へと竿を兩腕で振り上げて飛び降りた.
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振り上げられた木刀を,レオリオが手首の上で受け止めた音が鈍く響いた.クラピカが,彈かれた片方の木刀をそのまま後ろに流し,それと共に一度身體を後ろへと下げる.そして流れるように身體を反轉すると,木刀を片手に持ち替えて高い位置へと回し蹴りを振るった.
攻擊から次の攻擊まで,流れるような全く無馱のないクラピカの動きに,しかしレオリオはその全てをかわしてメスを握り直した.攻擊が途絶える一瞬の間隔に,空氣を切る細い音と共にクラピカにメスを振りかざす.
「くっ!」
クラピカが,床を後ろへ蹴って,月光を銀色に反射する銳利な刃先をかわす.互いが一度離れて距離を取った時,その間を,魔物に彈き飛ばされたゴンが船室の外壁に叩き付けられた.
「!?」
受け身の姿勢から立ち上がるゴンに,二人の注意が決鬪から逸れる.ゴンが完全に立ち上がった時,船長の叫ぶ聲が聞こえた.
「まかせとけ,こいつの弱點は知ってるんだ!」
殘ったクル-達が船長の指示でマストを張り,白い布が頂上まで登っていく.
「今だ!!」
風を見ていた船長が聲を上げると同時に,クル-達は固定すべきマストのロ-プから,一齊に手を離した.途端にマストの帆は風にひるがえり,月明かりを遮斷するように魔物の頭上へと廣がっていく.はためいた白い布は,魔物を包むように,その全體へと覆い被さった.
「やった!」
數人のクル-が聲を上げ,船長が口元に笑みを漏らす.
しかしその刹那,魔物の觸手がマストの帆を突き破って船上を叩き付けた.被せられた布を破り捨てると共に,攻擊性を增した觸手が船長を彈き飛ばす.
「危ない!」
「お,おい!?」
ゴンはレオリオの聲を聞かずにとっさに走り出すと,頭を抱えて起き上がる船長の前へと走りこんだ.毆り掛かる觸手を彈いて船長の無事を確認し,向き直ったが旣に左右兩方からゴンを攻擊するために觸手が振り上げられている.
「っ!」
しかし直後,それは走りこんでいたレオリオとクラピカによって防がれた.一度觸手が後退し,ゴンがそれを見送ったと同時に二人が勢いよく振り返る.
「何という無謀な!!」
「1人で突っこんでいく奴があるかボケ!!」
互いに武器を構えたまま,怒鳴り掛かる二人にゴンは笑顔で返事を返した.
「うん,二人のおかげだよありがとう!」
その言葉に,思わず二人が調子拔けしたような表情を見せる.
「あの魔物は,目を塞いでしまえばいいと聞いていたんだが,ダメだったが…」
帆を突き破り,無數の目を動かす魔物に船長が忌忌しげに言葉を零すと,ゴンがようやく納得したように笑顔で話し掛けた.
「なんだ!それならあれじゃあダメだよ!」■■
「何?」■■■
意味をつかめずに船長が返すと,ゴンはレオリオとクラピカに向き直って口を開いた.
「二人とも!俺が何とかするから,二人はあの魔物の注意を引きつけて!」
「二人で!?」■■■
心底嫌そうに同時に叫んだ二人に,ゴンは詰め寄るように前へ出た.■■
「お願いだよ!後は俺に任せて!」
互いに不滿そうに顔を見合わせ,しかし二人はゴンの視線に納得して構え直した.■■
「しょうがねぇな」
溜め息を付くレオリオの後に,クラピカもまたゴンの言葉を承諾する.■■
「了解した」■■■
ゴンが滿足したように武器を持ち直し,正面の魔物に向き直る.
「オラ,こっちだ!」
互いに背中合わせになったレオリオとクラピカが,レオリオの聲と同時に左右へと分かれた
左右から回りこんでくる觸手に向き直り,レオリオはその片方をメスで切り付けると,もう一方をかわして逃げまどうクル-を避けながら高く跳んだ.中空で魔物の動きを確認しつつ,船のヘリへと着地する.バランスを崩せば海流にのみこまれるその場所で,しかしレオリオはそのまま船のヘリを走って,クラピカ,ゴンの位置との距離を離した.
レオリオと逆に船上の左へと走りこんだクラピカは,動きを亂すこともなく視線だけで後方を見る.距離を確認すると同時に,前方にいた1人のクル-が,慌てながらランプを捨ててその場所を離れた.その殘されたランプを視界にかすめ,クラピカは踏みこんだ片足を軸に身體を反轉させて振り返る.■
「はっ!!」
構えた木刀で觸手の攻擊を毆り拂い,流れを止めずに片手で木刀をそろえて右脇へと抱える.觸手が再び攻擊を仕掛けるより速く,クラピカは着用していたマントを取り去って前方へと走りこんだ.そして,危險から逃げたクル-が投げ捨てていったランプを手に取り,手にしていたマントに包むと今度は魔物に向かって姿勢を低くして走り出す.■■
「くらえ!!」
叫ぶと同時に甲板を蹴ると,クラピカは抱えていたランプを魔物へと投げ付ける.ランプは船に取り付いていた魔物の身體にぶつかると,それを包んでいたマントに引火して燃え上がり,魔物は奇聲を上げて觸手で海水を吸い上げて火を消そうとした.
魔物の混亂を見て,ゴンが武器とする釣り竿を構え直す.■■
「いくぞ!!」
ゴンが構えた竿を高く上空に向かって振り上げると,勢いをつけた針の錘はマストの高さを更に超えた.細い絲がマストに掛かり,錘は勢いをつけたまま向きを變えて魔物の身體へと針を引っかける.
それに氣付いた魔物が大きく體を振り回すと,針をかけたままの絲は强い勢いで魔物の動きに引っ張られた.ゴンは强く竿を握り直し,甲板を思い切り蹴って跳躍すると,引き上げられる勢いのままにマストを飛び越える.
同時に,魔物の頭上でくるりと回轉して勢いを落とし,ゴンは魔物の上へと飛び乘った.
「よっ!」
着地した場所の,足元にある小さな黑い点を確認し,ゴンはその二つの点をじっと見つめた.途端,小さな二つの点は小さく見開かれ,パチパチと瞬きをする.それを確認したゴンは,笑顔で魔物の上へとしゃがみこむと,兩手でその二つの点を覆った.
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その途端,魔物の身體は空氣が拔けるように縮み出し,飮みこまれたクル-達が次次に甲板へと吐き出された.■■
「やった ──!!」
歡喜の聲を上げるクル-達の中で,船長がそれを滿足げに見上げて笑った.次次とクル-達が集まり,感嘆と歡喜の叫びを上げる.■■
「おい!大丈夫か?」
最後に甲板へと投げ出されたゴンに,レオリオとクラピカが驅け寄って聲を掛ける.ゴンは返事を返して起き上がると,手にした小さな生き物を二人の前へ差し出した.
「はいっ!これが魔物の正體だよ」■■
「は?…これが?」
ゴンに持ち上げられた,片手で持てる程度の大きさしかない軟體生物に,レオリオはサングラスを視線からずらして凝視した.クラピカもまた,きょとんとした表情でイカとタコとの融合體のような小さな生き物を見やる.
差し出された生き物は,上部にあるごく小さな黑い点をパチパチとさせた.■■
「…もしかして,これが目か?」
おどおどとしたように,せわしなく瞬きを繰り返す二つの点を指差してレオリオが言うと,ゴンはうなずいて笑顔で返答した.
「うん!だって,最初に現れた時からずっとこっちをにらんでたじゃん!」
當然のように答えるゴンに,レオリオはクラピカとお互いの顔を見合わせる.■■
「…氣付いてたか?」
「いや,全く…」
無數の鈍い金色のものは實際の目ではなく,目としての役割を果たしていたのは,この小さな二つの黑い点だったらしい.小さな魔物を抱え直すゴンに向き直って,レオリオは笑って感嘆の意を示した.■■
「全くたいしたもんだぜ.よく見つけられたな」
「うん,二人が引きつけてくれたおかげだよ,ありがとう!」
レオリオの言葉を受けて,すぐに笑って返したゴンの返答に,レオリオとクラピカは再び顔を見合わせる.
その三人のやりとりを見ていた船長は,嬉しげに笑い出して聲を掛けた.■■
「氣に入ったぜお前ら!安心しな,お前ら三人はこの俺樣が,責任を持って會場まで送り屆けてやるよ!」
すでに夜が明け始め,海上がようやく落ち着いた波を打ち始める.笑いながらクル-に指示を出し始めた船長の言葉に,三人はようやく息をついて笑顔をかわした.
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ウミヅルが,陽が昇った海を安心した樣子で飛び交っていた.いつも通りに鳴き聲をかわしては,時折船上のマストに降り立って戱れている.
お互いの言葉を撤回しクラピカと握手を交わした後,甲板で,レオリオが調理場から持ち出した深い鍋に,水をかけて沸かし始めた.ゴンに抱えられたままの小さな魔物は,それに氣付いたのか,ゴンに持ち上げられると慌てておどおどと動き始める.
ゴンは笑って手に抱えた魔物を見やると,海上に振り返ってその小さな生き物を海へと歸してやった.それを見たレオリオが,聲を上げながら走り寄ってきて船の外へと身體を乘り出した.
勿體ない,というようなことを抗議するレオリオに,かわいそうじゃん,と言い返すゴンの二人を,魔物を見送ったクラピカが船のヘリに寄りかかったまま微笑する.
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空の靑を映す波は穩やかで,風は順調に,三人をこれから始まるハンタ-試驗會場へと運んでいた.
으어어어어어어어 끔찍함 니다아아;;;;;;;